Cure of GAS

Castle Rock Photography

写真やカメラにまつわる話を淡々としていきます。

50mmは世界を変えられるか

50mmフォトグラファーで有名なHenri Cartier-Bresson。彼の使い込まれたブラックのM3とズミルックス50mmをみて心を打たれないライカ好きはいないだろう。彼が50mmについてインタビューに答えていた記事があったので抜粋。なぜ50mmを使うのかという質問に対し、以下のように答えている。

It corresponds to a certain vision and at the same time has enough depth of focus, a thing you don’t have in longer lenses. I worked with a 90. It cuts much of the foreground if you take a landscape, but if people are running at you, there is no depth of focus. The 35 is splendid when needed, but extremely difficult to use if you want precision in composition. There are too many elements, and something is always in the wrong place. It is a beautiful lens at times when needed by what you see. But very often it is used by people who want to shout. Because you have a distortion, you have somebody in the foreground and it gives an effect. But I don’t like effects. There is something aggressive, and I don’t like that. Because when you shout, it is usually because you are short of arguments.

要約(大胆な意訳)すると50mmはある目標に注目した時の画角であり、被写界深度もある(パンフォーカスの余地がある)、90mmは50mmより対象物を切り取れるが被写界深度が浅い(ため前後に動く対象物などに対し実用的でない)、35mmは素晴らしいレンズだが色々なものがフレームに入りすぎる(ブレッソンの撮影スタイルと反する)し厳密な構図(これこそがブレッソンの真骨頂だが)には向かない。また35mmに大はしゃぎする者は大抵はそのパースや歪みについてであり、ブレッソンはその効果が不自然と感じるため好きではない。それに、その効果について大はしゃぎする理由に根拠が見当たらない。(パースや歪みを良いとする根拠がないということだろうか)

35mmレンズは当時は広角レンズに分類されており、また大変おそらく高価だったであろう。50mm以上の望遠レンズが主流だった時代にすればそのパースなどは斬新だったに違いない。現在は35mmは標準であり、21mm以下などのパース、歪みに慣れてしまっている我々にとっては35mmの効果について語るブレッソンの言葉は逆に新鮮さを感じる。


写真を記録ではなく芸術作品(Art work)として捉える時、撮影者が意図を持って”世界を切り取る”ということは大変重要なことである。しかし同時に非常に難しい。それに、好きな小説家を答えるのと同じぐらいの気恥ずかしさがある。そう言った意味でブレッソンの写真は非常に強い意図を込められているのを感じる。

50mmはポートレートに適している。特にレンジファインダー機では最短距離70cmであり、35mmは50mmほどに対象を拡大できない制約がある。Bokehも同様である。以前35mmは50mmの画角をカバーできると書いたが、ひょっとしたらその逆なのかもしれない。

Portrait of M

50mmで風景を撮ってみた。十分に距離が稼げる(引ける)場所なら35mmや28mmよりもその圧縮効果で絵に存在感をもたらすだろう。またトリミング耐性の低いフィルムならば50mmはなおさら有利だ。変な癖もなく、自分の見たままの風景を忠実に切り取ってくれる。

In the suburbs of Tokyo

街並みの描写はどうだろうか。台湾の九份に行った時を思い出す。狭い路地の中、ひしめき合う店の片隅で一心不乱に小籠包を巻く長い黒髪の少女の姿が思い出される。21mmの超広角で路地全体を撮るのは良い。しかし50mmで撮るこの少女1枚の写真を見ればその蒸気にまみれた湿っぽい路地の喧騒は記憶として蘇るのかもしれない。(その旅行ではあいにく安いコンデジしか持っておらず24mm程度の記念写真しかないが、望遠レンズの必要性を肌身に感じた瞬間でもあった。)これはまたの楽しみにとっておこう。