ヨーロッパへ持参したカメラはHasselblad 500C/M、Rollei 35そしてデジタルはGRII 。
カメラの選択には1ヶ月かかった。
荷物は出来るだけ少なくしたいが、中判でも35mmでもフルサイズデジカメでもGRIIのようなコンパクトサイズでも撮りたい、などなど欲は尽きない。まあよくある悩みだ。結局本能にしたがって上記の組み合わせとなった。
フィルムは現地で買うことも考えたが、以前まとめてB&Hで輸入したものがかなり残っていたので30ロール程度をジップロックに入れてバックに詰め込んだ。それでもかなりの量である。
フィルム写真で一番心配なのはX線検査である。
経験上、2回程度ならばフィルムに影響はないと知っていたが、今回は空路の移動が多く、照射回数は最低4回程度となるため不安は募る。
成田空港からスキポール空港
成田空港ではなんとX線を通さずに無事に通過できた。女性検査員の方にフィルム入りの袋を見せると、あーといった感じで、
「目視確認したのでそのまま通過して下さい」
と言われた。さすがカメラ大国日本。素晴らしい。
それから11時間のフライトを経てオランダスキポール空港到着。トランジットで当然のごとくX線検査があった。やはり成田同様ジップロックに入ったフィルムを見せて照射無し通過を期待したのだが、有無を言わさず機器に通された。その後、保安員に呼び出された。
「これはあんたのカバンか?」
「そうだ」
「Open」
ヒスパニック系の真面目そうな青年だった。どうもハッセルの内部に麻薬か爆発物が隠されていると疑っているようだ。特殊な器具でハッセルの表面をナメるように検査する。もちろん何も反応はない。そして「OK」とだけ言われて無事ゲートを通過した。その後スタバで休憩してドイツのミュンヘン空港へ。
ドイツ入国
ドイツ入国時は荷物検査はないためX線は免れた。ミュンヘン空港近くのホテルで1泊してから翌日ヴェニスに向かう。
ヴェニスまで空路で向かうため、ドイツ出国時に再びX線検査があった。もうほとんど諦めていたのでダメもとで鼻立ちの整った若い女性保安員にフィルムを見せながら事情を説明すると、ISOはいくら?と聞かれた。
これはうまくいきそうだ。そこで 400 と答えると初老の男性を連れてきた。
話が通るかと思いきや、有無を言わさずフィルムを機器の中へ放り込まれた挙句、個別に呼ばれ、カバンを開けてカメラを見せろと言われた。
スキポール空港に続いてこの時点でかなりウンザリしていたが仕方なくハッセルとローライを目の前に置く。
ちなみにRollei 35はドイツ製。それを見た初老の保安員が少しニヤけたのを私は見逃さなかった。そしてやはり特殊な機器をナメるようにカメラに当てる。もちろん問題なし。立ち去ろうとすると妙な質問をしてきた。
「このフィルムはどこで買った?」
「日本」と私。
「 1 個いくらくらいだ?ユーロで答えてくれ」
これは世間話ではなく、こいつは本当にフィルムカメラでフィルムを使って撮っているのか、その確認だろう。麻薬の運び屋ならフィルム1個の値段を答えられないはずだ。
仕方なく頭の中で円ユーロ換算するがいきなりなのでかなり難しい。しかもフィルムのブランドや種類によってかなり幅があるではないか。とりあえず
「8ユーロ(およそ950円)」と答えたのだが、
「ノーッ!!」と即答された。ドイツ人らしい自信に満ちた返答である。
高いのか。しかしドイツ国内のフィルムの相場なんて私が知るわけがないじゃないか。それで「4ユーロ(500円)」と答えると、
「ノ、オ、アー、イエス(ヤー)」と口ごもった。
すかさず「日本じゃフィルムは高いんですよ」と伝えるとなぜか笑顔で両親指を立てて「OK」と言われ終了した。全く。。飛行機はヴェニスを目指す。
ヴェネチア(ヴェニス)
常夏のベネチアに到着後、すぐにハッセルを手に写真を撮り歩く。いずれ沈むかもしれない奇跡の街。フィルムに残しておく十分な理由だろう。
ミラノへ
翌日ミラノまで陸路で向かう。
列車内ではひたすら車窓からの景色を眺めていた。葡萄畑だろうか、牧歌的で心が和む。数時間後、ミラノ中央駅へ到着した。
ミラノで1泊し、スイスへ再び陸路で目指す。アルプスの連なる雄大な景色へと移り変わる様に我を忘れて、飽きる事なくシャッターを切る。
ジュネーブへ
ジュネーブに到着。ホテルに荷物を置いて近くを歩き回る。翌日は車でレマン湖をドライブする。大変美しい。こんなに雄大な景色を眺めていると日本でいつもギスギスしている自分(そして人々)は一体何者なんだろうと考える。
帰路へ
スイス出国時、最後のX線照射を受けた。ここでも「ISOは?」と聞かれたが、ISO4000まで平気と言われ機器に通された。飛行機はド・ゴール空港を経て羽田を目指す。
X 線の影響
成田空港で照射を受けなかったお陰で、合計3回に止める事ができた。帰国したその足で銀座のラボにカラー現像を依頼する。数日後仕上がったネガをみても特にダメージは感じられないが、数枚の写真に通常なら起こりえない現象、白もやや白線が見られた。
肉眼ではこの程度だが、CineStillフィルムをSilversaltさんへ現像依頼した結果、かなり興味深い返答が返ってきた。
ネガの濃度(fog)が高い、X 線や非常に暑い場所にフィルムを置いていませんでしたか、とのこと。素晴らしい。さすがプロ中のプロ。数値として出されるとやはりX線の影響はある、と考えられる。
ちなみにX線をうまく避ける方法は ISO値を聞かれたら6400と答える事、そして(事実でなくても)自分は職業的フォトグラファーのためリスクは避けたい、と伝えれば良いとアドバイスまで頂けた。
旅の総括
正直なところ、海外に重たいフィルムカメラを持っていく、さらにフィルムの扱いに気を使う事はストレスであった。旅、特に海外旅行となると持っていくカメラやレンズに悩むのは当然で、また選択を誤ると疲労で旅が台無しになる。
Web を調べると当然のごとく、軽いのが良い、コンパクトが良い、レンズは広角1本で良いなど色々なアドバイスがある。しかし個人的には自分が本当は何で撮りたいのかを優先する事が大切だと考える。
私があの重く扱いずらいハッセルを持って行ったのは単純にハッセルで撮りたかったからで、6×6のスクリーンから見える美しい街並や景色を独特のボシュんという音で切り取ってみたい、ただそれだけのために麻薬の詰まった箱と間違えられても持参した。
いくつかの出会いもあった。ハッセルで撮影していると若いカップルに一眼レフで写真を撮ってもらえないかと頼まれた。
湖で撮影しているとフランス人の老夫婦に撮影を頼まれた。構図を意識して奥さんのスマホで撮影。良い感じの老夫婦だった。私もいつかこうなりたい。
フィルムにこだわる理由
今回旅行に出る前、およそ15年前にニューヨークへひとり旅した時のネガが見つかった。
スキャンしてみると見事な景色が色褪せぬまま存在していた。同時期に撮ったoptio s60というデジカメの画像は現在のスクリーンでは親指ほどの大きさの解像度しかない。
まだSDカードのバイト数が少なく、数多く撮るために画質設定を400ピクセル程度のサイズにしていたためだ。
当時のモニターではこれで十分であったが、現在の標準的なモニターでは引き延ばすことも不可能だ。またハードディスク間の移動によるデータの劣化も起こっている。
それをみた時、やはり大事な写真はフィルムで撮ろうと決めた。フィルムで撮っておけばその時代に適したスキャンのサイズでいつでも閲覧可能だからだ。
さてと、次はどこへ、そして何(カメラ)を持って行こうか。