最近仕事で写真を撮ることが多くなってきた。
といえばなんだか聞こえはいいが、実際は報酬をもらってではなく、包括業務、いや、業務包括か?まあ要するに会社の業務の一環として写真を撮る、ということで、職業カメラマンのように撮影料をもらって撮ることとは全く異なる。給料も上がらないし、賞与にも反映されない。
事の経緯は単純で、今勤めている会社がパンフレットやwebで広報をする際にこれまでカメラマンを雇っていたのだが、おおよそ1日束縛で費用は10万である。
これを疑問に思った新役員なり、上層部の人間が私に相談にきたわけだ。
相談内容は
この写真は本当にプロクオリティーなのか?
10万は適切なのか? で、最後に
この写真を君は撮ることができるのか?
である。
正直これらの質問は全て、最後の質問(この写真を君は撮ることができるのか?)への布石であり、収束への誘導。下世話な要求をオブラートするためのレトリックであることを私は確信していた。 要するに、撮るなら当然仕事の一環としてなので、もちろん無料でということだよーん、という感じである。以下質問への私の回答を書き留めたい。
この写真はプロクオリティーなのか?
正直わからない、と答えた。なにを持ってプロクオリティとするかの判断が私にはもはや出来そうにないからだ。というのは、こんなブログやってて、プロアマ限らず嫌ほどハイクオリティな写真を日々目にしていて、フィルムのザラつきやブレ、眠たい写真すらまるで、モネの絵画のように(たとえが変か?)芸術だと思うような自分がいて、プロクオリティ=普通の写真にしかみえない。
「いい写真ですよ、綺麗にとれてるし、3000pxの300dpiもクリアできてるし、明るいし」
そんな返答をしたのを覚えている。
私は一度その撮影現場に居合わせたことがある。カメラマンは比較的若い男性で、みるからに重そうなプロフォトのロケットランチャーみたいなライトとニコンのカメラを持っていた。レンズは大三元などではなく、いわゆる廉価版。理由は軽いから、らしい。まあそりゃそうだろう。 移動が主の職業カメラマンにとって軽さは正義。趣味で1300gもするF1.2大口径レンズをチョイスするのとは訳がちがう。
彼はライティングが非常に巧かった。ほとんど失敗する事なく適正露出で全ての写真を撮った。これは簡単そうで難しい。そういった意味ではプロクオリティの写真だろう、な。
10万は適切なのか?
いきなりだが、私は妻と挙式をあげていない。お金もなかったし、そんな余裕すらなかった。代わりにチャペルみたいなとこで写真を数枚撮った。その時に提示されたのが10万円だったと思う。なのでこの金額は相場か、ひょっとしたらリーズナブルかもしれないというのが本音だ。それで答えた。
「まあ、それくらいは、かかりますよ。夏場でもハーハー言って重い機材持って歩いてるわけだし。撮った後でも編集やデータ保管のコストやリスクもありますし....」
「うちのアルバイトさんの日当は1万1千円なんだがね」役員のひとりが言った。「その10倍の価値があるのか?」
この言葉で、まだ20代の頃、冷蔵庫内でアルバイトしたことを思い出した。冷蔵庫といってももちろん家庭用ではない(あたりまえか)、冷蔵の倉庫である。
映画ロッキーに出てくるような牛さんがぶら下がっている、あんなのをイメージしてほしい。ある派遣会社での登録で降りてきた仕事だ。それで日当が8千円だったと思う。実際は1万5千円くらいで胴元が中抜きしていたのは間違いないけど。
仕事はきつかった。肉体労働なので体がすぐに熱くなるので上着を脱ぐのだが、ものの数分で凍えるように寒くなる。低体温症にならないように頻繁に外に出る。外は真夏の気温。喉がやけに乾いてリッターのペットボトルの水があっという間に無くなる。それを繰り返していると身体のホメオスタシスがバグる。まるで赤銅色に燃える鋼に水をかけて鍛えるように、肉体的精神的にタフになった、といっても二日で辞めたけど。誇張ではなく1日で体重が2キロ近く減ったのを覚えている。
写真撮影はその10倍の労力が必要な仕事なのか?
こういったことは突き詰めると、訳がわからなくなる。 ブルシット理論?エッセンシャルワーカー?まあ、どうでもいい、か。
この写真を君は撮ることができるのか?
会社にあるカメラはEOS 6DMKII、レンズはタムロンの廉価版。あとはレフ版が少しと貧弱なライトボックス。撮れないことはない。もちろん、少なくとも一般人がみて違和感のない綺麗な写真くらいは撮れる。
「よろしく頼むよ」役員が言った。
私は咄嗟にブラピ主演の映画『Ad Astra』のセリフを思い出した。
ブラピ扮する ロイ・マクブライド少佐はある重要なミッションを上官から頼まれて、心の中でこう呟く...
Are you with us? Like I have a choice...
(やってくれるか、だと? やれってことだろ...)
私が思わずニヤけながら承諾したことをお伝えしておきたい。