Cure of GAS

Castle Rock Photography

日々について淡々と書きとめてます。

素晴らしき日々

先日保護猫を貰い受けました。1ヶ月半の♀です。

先代猫が旅立ってから夫婦共々なかなか次の一歩を踏み出せないままでしたが、これからまた素晴らしい日々が訪れますように、希望を持って。

Hope is a good thingどうぞよろしくお願いします。

鎌倉、東慶寺にて

昨年のお話。

尊敬する小林秀雄先生が眠る東慶寺へお墓参りを兼ねて訪問した。 東京から鎌倉へ。県は違えどそこは関東圏、電車で1時間もかからない。しかし不思議なことに駅を降りると空気が違う。 東から運ばれてくる潮を含んだやや湿った風が心地良くて、なんだか笑みが溢れてきてカバンに入れた年代物のマキナ67を意味もなく触ってみたりする。

やはり外出は良い。 秋の休日。

海岸沿いの道ではサーフボードを担ぎ真っ黒に日焼けした人々と何度もすれ違った。

End of the Summer

太陽の照りつける浜辺を散歩しているとふと東松照明氏の写真集『太陽の鉛筆』を思い出した。沖縄に暮らす人々を素直な描写で紙面に焼き付けている。カメラは確かニコンF。あれよという間にプレミア価格の付いた写真集。

新編 太陽の鉛筆

新編 太陽の鉛筆

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東慶寺に着いたのは正午すぎで、偶然なのかほとんど人がいなかった。

庭師に先生のお墓の場所を尋ね、銀杏を踏まぬように慎重に歩を進める。 石階段は見事なコケで覆われており、梅や桜の木々の間から滑り込むような光のベールがそれらに反射してあまりに美しく、しばらく見惚れていた。

小林先生のお墓は大変素朴なもので、苔に囲まれた敷地に小さな五輪塔が置かれている。先生は書籍の中で”美しさとは複雑なものではなく、もっと分かりやすく単純なものの中にある”と説かれていた。先生の最後の形をみて、やはりそう思わずにはいられなかった。

その後少し奥まで足を伸ばした。苔と木漏れ日に覆われた墓地。美と静寂の中、写真を撮ることに意味を見出せなかったが、今度いつ来られるかわからないので、墓跡を避けるようにして1枚だけ、小川の水を手で優しく汲むように、森林の木漏れ日をフィルムでそっとすくった。

One quiet day memorial

今でもこの写真を見るたびに静けさや苔の匂いを思い出す。なんの変哲もない写真だが、私にとっては大切な写真である。

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この記事を書こうと思ったのは、つい数日前に東慶寺のHPを覗くと、寺院敷地内での撮影行為は一切禁止にすると住職からの思いが綴られていた。

文章を読むと散々悩んだことがよくわかる。苦渋の決断だろう。マナーを知らない人間によって増える禁止事項。大変悲しいものである。 私も撮影側の人間なので偉そうなことは言えないが、やはり撮影枚数が決まっているフィルムは大変素晴らしいのではないか、と改めて思った。

さらに最近の異常な高騰ぶりで頻繁には撮れないため、皆が中判で12枚のみ、と決めていれば大切な場所が汚されることもないのかも。

フィルム、素晴らしいではないか。などと思いつつ、本当にフィルム、もっと安くならないものかとため息をつきながらダーマトグラフでネガに印を付ける。

 

梅雨が好き

五月晴れの夕暮れ時、生まれて間もない新緑の葉から立ち昇るシダーウッドのようなスパイシーでやや切ない香りが片開き窓の隙間から部屋の中へ湿気を運んでくる頃、新しい季節の始まりを感じる。

一般的には敬遠されがちな梅雨の時期だが、私は好きだ。 1年の中で最も過ごしやすい気温、そして適度な湿度。 雨の日は多いが、夏や秋のように急激な天候変化で豪雨になることも少ない。 しとしとと降る雨。層雲でディフューズされた街並みはモノトーンで大変美しい。

エアコンの高周波音に邪魔されることもなく、お気に入りのゆり椅子にもたれながら本を読む。時折野鳩の鳴き声が聞こえる。

さて、色あせたデニムにローファーを履いてカメラを持って散歩に出かけよう、かな。

fuji 400H / contax T3

現像ソフトあれこれ

先日かなり安くなっていたLuminar Aiをダウンロードした。

しばらくいじくり回した後、私の使用上特に問題はなさそうなので、2台分のライセンスを購入した。 自宅用と会社用と。

これまでずっとPhase OneのCapture One(CP1)を使ってきた。それこそバージョン3くらいの頃からである。2008年、もう10年以上前になる。

多くの人がそうであるように、これだけ使っていると完全に使い慣れが起こる。新バージョンをダウンロードするとすぐにレイアウトを変更し、ショートカットの割り当てをする。新機能も直感で操作できる。 大好きなソフトというわけでは無いが、馴染みの古い相棒という感じだろうか。

現在はバージョン15(タイトルは22)まで出ているが、私はバージョン12(タイトル同じ)を最後に更新をやめてしまった。これまで何回も更新して(課金して)バージョンを上げてきたが、新機能が欲しいという理由で行ったことは一度もない。どちらかといえば、上げざるを得ない状況に陥ったため渋々(大金を払って)更新してきた感じだ。

大抵は新しいカメラの新RAW形式未対応(富士フィルムが多かった)のため、そしてOSのバージョンアップで非対応となってしまったことが多い。

1997年、PowerBook G3を購入して以来のマックユーザーだが、先日ようやくOSをCatalinaからMontereryに更新した。更新を渋っていた理由はもちろんCP1-12がこの最新OSに未対応だったからだ。

CP1-22へのアップグレードには2万円かかる。安くはない。

去年Lightroomサブスクリプションを利用していたことがある。こっそりとCP1からの脱却を狙っていたのだが、使ってみるとクラウドストレージがあまりに秀逸で大変満足していた。

しかしフィルムやキヤノンで少し写真を嗜(たしな)んでいる私にとって、画像をレタッチする範囲はあまりに狭く、高機能があってもほとんど使うことがない。

NYC 2005

そのうち毎月1000円の使用料が高いのか安いのか分からなくなってしまった。 そして結局解約することになるのだが、一度クラウドにしまった画像をローカルに戻すのに1週間程度かかった。クラウドはもうこりごりだなと思った。

というわけで、Lumiar Ai、仲良くしましょう。

追記:

ちなみに掲載写真はKodakの使い捨てカメラでとった2005年のニューヨークである。

試しにAiで空を変更してみた。

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skyモード

...こりゃないわ...。やはり多機能は私には全く不要である。

焼けたネガとライカ

去年の初め頃、フィルムを巻き戻す前に底蓋を開けてしまったことがある。

その時はショックで現像したネガを見もせずに棚に放り込んでしまったのだが、今となっては大変いい想い出話となっている。

Let go of yourself

湖畔に到着したのはまだ薄暗い明け方で、ほんのり朝霧が漂う中、時折釣り人の人影がみえた。 ISO100のフィルムを詰めたライカを首にぶら下げ、冷たい湿度をもった心地よい冬の空気を感じながらぶらぶら桟橋周辺を散歩する。

レンズはズミルックス35mmのみ。絞りをF1.4に固定し、シャッタースピードを注意深く調整しながらシャッターを下ろす。こんな薄暗い朝は特にF1.4の恩恵を感じる。

手が凍えそうだったが、撮影中はシャッターフィーリングが鈍るので手袋はしない。冷たい鏡筒と指の腹に触れるフォーカスレバーが凛とした風を誘い、脇をしめて1/8でシャッターを切る。1枚、そしてもう1枚。

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MP0.72/summilux asph

普段120で撮っていると135が長ったらしく感じる。しかし気軽に、目についたものを、枚数を気にせずに撮れるのはありがたい。特に刻々と表情を変える夜明けや日没の撮影には36枚、ちょうどいい。

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ファーストロールを終えて車に戻り、ライカをひっくり返して底蓋を外した。 そこで、ハッとした。 無いはずのフィルム感光面が、パーフォレーションが見える。

すぐに閉めるべきだったのだが、なぜか思考停止。

おそらくこれまで撮影後の巻き戻しはほとんど無意識で行っていたせいだろう。 あまりに自然の行為すぎて、原因(無意識)と結果(現在)の脈絡がつながらなかったと思われる。

と言ってもおそらく3秒から5秒程度で、これはマズいと思ってすぐに裏蓋と底蓋を閉めた。フィルムが光で完全に焼かれるまでに数秒間というルールがあるらしいので、 「まあ...」「う〜ん...」と考え込む。「ひょっとしたら大丈夫かも...」「やはり無理かな...」などと自分の中で納得できる答えを探し求める。

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仕事で撮っているわけでは無いので正直なところ自己消沈以外の問題は起きない。もちろんフィルムはコストがかかるので(現像まで行うとワンショットあたり100円〜200円)、1ロール無駄にしたことは残念だが、それよりも初歩的なありえないミスをしたことに気分が落ちた。 しかしすぐに気を取り直し、撮影を続けた。

ささやかだがライカと過ごした楽しい日だった。

帰宅し、現像する。一縷の望みをかけて仕上がったネガを見る。 フィルム上面、つまり裏蓋を開けた側のパーフォレーションにそって見事に白くなっている。すぐに棚に仕舞い込んだ。

去年暮れから年始にかけてフィルムを整理していて、この失敗ネガを見つけた。 その時は見たくもないと思ったネガだが、なんだかすごく楽しくて、宝石を見つけたように得した気分になった。

成功も失敗も時が経てば良い思い出なんだろう。丁寧にスキャンして保存した。 ブログに掲載の写真が全てである。

デジタルならとっくにDeleteしてハードディスクから抹消している思い出。やっぱフィルムは良いね。

 

 

草葬

そうか、もういないんだな。

朝早くに起き、いつものようにお湯を沸かす。コーヒー豆を挽き、トースターでパンを焼く頃、いつの間にか足元に現れてニャアと小さく鳴く。お腹が空いた合図だ。今はもうその気配だけが残っている。

With a thankful heart

ペットロスから回復するのにひと月からふた月かかるというが、大体合っていると思う。今回のことを記事にしようか迷ったが、半年前くらいにSさんの状況を伝えていたので、けじめとして書き記そうと思った。しかし落ち着いて文章にするまでに随分と時間がかかった。キーボードを打つたびに何度も涙が出てとても書けたものではなかったからだ。

もちろん完全に回復したわけではない。今思い出しても切ないことが沢山ある。

足腰が弱り切ってジャンプもできなくなり、それまで夜になると妻の隣で寝るのが大好きだったのにそれもできなくなり、数ヶ月の間独りで丸まって寝ていた。

最後を迎える2日前の深夜、唐突にベッドによじ登り、妻と私の側に寝転んだ。二人とも気配に気づいて目が覚めたが、お互いに声をころして泣いた。 愛するものの側に居たい、ただそれだけのために本当に最後の力を振り絞って側に来てくれたんだな。甘えた声で小さく鳴きながら。

旅立つ前日まで吐くこともなく、自力でトイレにも行った。気高かった。そしてその翌日の朝、早い呼吸を二回したあとで息を引き取った。折しもその日は私の誕生日だった。

妻からのラインで知らせを受け、仕事中だったが自然と涙が出て、どうにも止まらないので、そのままトイレに駆け込んだ。

帰宅して、まだ部屋中に漂っているSさんの魂を静かに感じた。特に宗教的な意味合いはないのだが、生き物の魂は、生前の姿形は違えど皆平等なんだな、となぜかその時はっきりと悟った。

小さな棺に大好きな猫草を沢山入れて草葬とし、1週間後、火葬した。

9年間という短い間だったが、子どものいない夫婦にとってはかけがえのない存在だった。楽しかった思い出しかない。そして最後まで懸命に生きた姿は、私たちに生きろ、と教えてくれるようでもあった。 当分ペットは飼えないし、写真を撮る意欲も落ちた。世界情勢も決して良いとは言えないが、それでも、

生きなきゃな、と

Treasure moments

 

(最後までお読みいただきありがとうございました)

続:フィルムの終焉

富士フイルムの160NSディスコンのニュースに心が痛んだ。

ニュートラルなカラーで使い勝手がよく、かなり安価。これから中判フィルムを楽しむ方にも、気軽に手を出しやすい良いフィルムだった。

まだ市場に在庫は(恐らく潤沢に)あるので明日から使えないという話ではないのだが、この、いわば場末でひっそり消えゆく雰囲気に気が滅入る。

Before  the rainy season

Morning Flowers

この調子で行くと先に終焉を迎えるのは120サイズだろうか。135はなんとなく残りそうな気がしているが、紙やプラ廃止のSDGsが声高に叫ばれる中、なんともいえない状況だ。

Road Trip #1

イカ社が全ての面倒を見てくれる可能性もある。フィルム製造会社の買収による一貫生産体制の確立など。それこそフィルム文化のSDGs。M6やMP0.72、市場に溢れるハイプレミアム価格の付いたフィルムカメラを購入したユーザーへの責任、などと大袈裟にいうわけではないが、ガソリンの無くなったガソリン車を眺めていられるほどコレクター気質のない私のような凡人には閑却できない問題である。

Sentimental Value

先日期限切れ間近なE100を借り物のマキナにつめて鎌倉海岸を撮影してきた。出来上がったポジをみてやはり良いなと思う。これがこの先消えてしまうのは残念だなと思う。

しかし時代の変化と社会の価値観の変容に抗うつもりはない。

 

『...身を捨ててこそ身をも助けめ』(己を捨てることが己を救う道)西行

We're here

 

さて、フィルムに一番近いX-proでも検討してみようかな。来年には素晴らしい23mm F1.4が出るとのことなので。

Hazel memories