Cure of GAS

Castle Rock Photography

写真やカメラにまつわる話を淡々としていきます。

停酒と再生の繰り返し(1)

最近になってプチ断酒を始めたので、その備忘録と過去の記録について。

30代の終わり頃、初期アルコール中毒のような状態になったことがある。そして、ある事件をきっかけに約1年半に渡って断酒(というか停酒)した。その時の教訓は今も忘れておらず、そのおかげで停酒と再生を好きな時に行えるようになった。もしお酒に困っている方、止めたいと思っている方にとってこのブログが何かの参考になれば幸いである。

アルコールを飲み始めたきっかけ

今となってはいい経験だが、当時は結構シリアスに捉えていたようで、もう二度とアルコールは口にしない、と誓めいた言葉が日記に書き込まれている。

誰もが(若い方はいずれ)経験すると思うが、30代後半から40代に突入する前後では身体的な変化が著しい。心は若い(と思っている)のに身体は男性ホルモンの低下で毎日やけにダルい。そのうちメンタルまで疲弊してくる。仕事でももはや若手ではなく中堅どこ。責任も重く、上司と部下に挟まれストレスが溢れる。いわば悪い連鎖反応がすぐに生まれる土壌が出来上がっており、生命をすり減らす毎日。男の厄年は42歳だが、その前に厄払いに何度か行ったくらいキツい日々だった。

初期アルコール中毒

そこで多くの人が選ぶであろう手取り早い息抜き、張り詰めた神経を柔らかくするためにアルコールを飲み始めた。 それまで自宅で飲むことはほとんどなかったので、最初はナイトキャップから始め、寝る前にブランデーを少し舐める程度。しかしこれが意外にはまってしまい、そのうちラム、ジン、チンザノ、スコッチ、ワイン、もちろんビールなど、あらゆる種類の酒が食卓に並ぶようになった。

その中でなんとなくワインは知的でソフィスティケイトされたイメージがあり、エノテカの講習会にまで参加するようになった。(詳細はページ下記)

www.enoteca.co.jp

まあとにかく、詳しくなればなるほど自宅にはワインの瓶が増えていき、やれボルドーメルローだ、オークの香りだなんだかんだうんちくを垂れながら(もちろん妻相手に)、平日でもお構いなしに、ほぼ毎日ワイン1本を空けていた。 昔からお酒を飲んでもほとんど性格に変化が現れない私を知っている妻は、ニヤニヤしながらその様子を見ていたように思う。

飲み過ぎ、というより、今思えばよく飲めたものだ。若かったし、なんだかんだいって健康体だったのだと思う。

アルコールに強いかどうかはわからない。母方の家系が酒飲みだったらしいので、分解酵素が盛んだとか、代替酵素が遺伝的に良いとか色々あるかもしれないが、飲むのは苦痛ではなかった。嫌なのは二日酔いで、朝から最悪の気分で出社していた。しかし不思議なことにそのうち二日酔いしている状態が普通になっていき、二日酔いのない朝、つまり飲まない日の翌朝を迎えると逆に違和感を感じていたほどである。

そんな日々が1年以上続いた後、ある事件が起きた。

ボヤ騒ぎ

いつものようにビールを前菜にワインとチーズで陽気になっていた夏のある晩、かなり近くでサイレンが鳴った。もうほとんど家の近くで鳴っているようで、私も妻も猫も、みんなで聞き耳を立てていた。

赤いライトがぐるぐる回りそこら中の家の壁に反射してそのうちいくつかは窓越しに自宅内にまで入り込んでいた。消防隊員数名とパトカー1台に警察官2名。なにやら話し声が玄関近くで聞こえる。どうやら隣近所さんでボヤ騒ぎがあったようだ。

時刻は午後10時前。普段なら静寂に包まれる時間帯の閑静な住宅街。

火の粉がかかっては一大事だと、酔った頭のままおもむろに立ち上がり、玄関先へ様子を見に行った。するとなぜかそこには2名の警察官が立っていた。ノックする前からいきなり玄関扉が開いたので少し面食らった様子だったが、そこは冷静なポリス

「こんばんは。少しお話しを伺ってもよろしいでしょうか?」 身だしなみの整った、都会のお巡りさんという感じだった。

私はというと、ハワイのお土産でもらったくたくたに疲れたカレー色のアロハTシャツと、くすんだ色のショートパンツという姿で、足元はとりあえず履いた種類違いのサンダルだった。

「通報したのはご主人様でよろしいでしょうか?」 私の姿を舐め回すように見た後で、若手の警察官がそう尋ねた。

一瞬何を聞かれているのかわからなかったので、アルコールで頭の緩んだ、ジャックニコルソンのようなうっとりとしてよどんだ眼つきで警察官を見つめた。数秒後、タンニンとチーズの芳醇な香りが残る口をようやく開けて

「通報?」と聞き返した。

「はい。火災通報がありました。〇〇さんからの通報ですが、火元が見つからなかったので...」

〇〇は確かに私の苗字だった。全く理解不能な出来事だったが、スティーブンキングのファンである私は(このブログのタイトル、キャッスルロックはスティーブンキングの小説に出てくる架空の街である)、いやまて、ひょっとしたら電話したのは俺、か?もしれない。酔ってるしな、全く可能性がないわけでもないぞ、とミステリーに持ち込もうとしたりして、しかしそんな事があるわけはないので、ジェリーに一発食らったトムのように緩んだ頭のネジをすぐに締め直して

「すみませんが、全く身に覚えがありません、妻もいますが、(通報することは)あり得ないです」

それを聞いたもう一人の警察官は玄関外に身体を乗り出して表札を再び確認して

「けど通報者は〇〇さん、お宅の表札の名前ですよ」と言った。

昔から警察は苦手である。そしてすぐに中学生の頃、友人と二人乗りをしていた自転車に盗難容疑をかけられ補導された時以来の嫌悪感が湧いてきた。なにクソ、ここはうちの敷地だゾ!

「名前は同じでも私達ではありません。疑うなら通報者の発信履歴、というか着信履歴の番号を調べてください。うちの番号とは違うはずです。履歴、調べられますよね?」

今回は私のポイントとなった。警察官は私と妻の携帯番号を控えて無線でなにやら連絡している。しばらくして戻ってきて

「確かに番号は違いますねえ」警察官の口調から疑念が晴れていないのは明らかだった、そして 「えーと、今お酒飲まれてるんですか?何かご近所さんとトラブルでも?」

この先はご想像通り。通りいっぺんのやりとり(押し問答)の末、その日は解散した。

翌日、どうにも腹が立ってしょうがないので、ボヤ騒ぎのあった家へ出向き、経緯を説明した。隣家と、しかも誤解で関係が悪くなるのはたまったものではない。 それから消防署と警察署に電話して身分を明かした上、消防法第44条第20号の虚偽通報の規定について触れ、その通報者の特定を要請した。警察がこんなことで動くわけはないし、犯人?を教えてくれるわけではないことは重々承知の上だが、だってこのままじゃ気が晴れないでしょ?

しかし、後日消防団の団長はボヤ騒ぎの家を訪れ、通報者は(苗字は同じでも)私ではないと伝えてくれた。家主も納得(というか安心だろう)し一件落着となった。

(念の為だが、近所付き合いは悪くないし、派手で羨まれるような自宅でも生活でもない。たまたま偶然起きた愉快犯による運の悪い出来事だろう。もちろんそれ以来そのようなことは一切起きていない)

断酒の決意

そんな刺激的な事件の最中、思い出すのはやはり酒に酔って、だらしないなりで対応した私の姿である。そして一瞬でも本気で、ひょっとしたら通報したのは俺かもしれない、と考えさせたアルコールの恐ろしさ、そして警察官の疑り深い対応。実際にあの時シラフならばもっと踏み込んだ対応(様々な調査や要請、隣家への報告など)ができたと思うし、警察官の対応も違ったかもしれない。

そしてこれが本当に火事なら?震災なら?酔った頭でボロ着のまま逃げれるか?家族を守れるのか?

ドラマのような展開だが、元々踏ん切りの良い性格のため、数日後、家中のアルコールを全て捨てて、飲まない生活を開始した。

 

次回:断酒の記録

エノテカの記憶

そもそも参加したのは7年か8年前なので今では様子がガラッと変わっていると思うし、語弊があってはならないのであくまでエンターテイメントして読んでもらえたらと思う。エノテカさんは素敵な店です。

エノテカさんは定期的な試飲会の他、少人数制の講習会のようなものを開いており、こちらは現役ソムリエの方にワインのうんちくを教えてもらいながらおつまみとともに楽しむ大人の軽食会のようなものである。

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私が参加した時、シルクのような肌触りのダークグレーのキャミソールに品の良いシルバーのアクセサリーをつけた女性達とイタリアもの(例えばgiabsarchivioあたりか)のパンツにクロケット&ジョーンズのタッセルローファーを履いた、ゴールドマンサックスから休憩中に抜け出してきたような30歳前後のリッチボーイ達など、いわば毛並みの良いハイソな、恐らく20代から30代の、(恐らく)独身の男女が鎮座しており、ひと目見て場違いな場所に来たと感じた。

私の格好といえば軍物のカーゴパンツにウルバリンのブーツ、これまた軍ものの黒いワッフルロングTというイデタチで、戦場カメラマンのようである。当然ながら一番端の席に座らされ(座らされ、というのはエノテカさんがそう強いたわけではなく、なんとなく場の空気の流れに乗ったということ、念の為)、会が始まるのをセレブリティな雰囲気に包まれながら待ち構えていた。

会が始まった。

ソムリエによる簡単な挨拶の後、銘品ワインが少しずつグラスに注ぎ込まれる。それを傾け、香りを嗅ぎ、口に含んでひゅるひゅると鼻を横に広げてから息を出してテイスティング。それから一息に喉元へ流し込む。

ブラックベリーのような、カシスのような、オークのような云々、の香りがする。

ような(like)、というのは実際にそんな味はしない(少なくとも私には)からで、するのはタンニンの渋みと、これから回る(頭のネジが緩む)だろうな、と確実に予定されたアルコール(エタノール)の薬物臭である。よってlikeというかas(として)楽しむいった方がいい。カシス臭としてのアルコール、オーク臭としてのアルコール、ローズマリー臭....などなど。

特に二杯目からはもう正直どうでもよくなる。そもそもアルコール臭が一番するのがシラフ舌を漬けた時で、それ以降は"どれも同じ"か。

まあこんな感じで、アンティパストやアントレ的な前菜と共に場を楽しむ。ちなみに参加者同士が話す機会は皆無だったが、きっかけがあれば十分に可能で、ひょっとしたら会を重ねるごとに親しくなるヒトが見つかるかも。

会が終了したと同時にそそくさと店を後にした。面白いのはその時のメモ帳にはワインの産地のほか"ジャケット着用?"と走り書きしてあったことだ。

いまだに大人気のお茶会なので興味のある方は是非(身なりを整えて)参加していただきたい。

coalfishsholco.hatenablog.jp

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