最近旅に出てもお酒をあまり飲まなくなった。
禁酒や節酒のように自発的に止めているのと違って、身体が(大量の)アルコールを受け付けなくなっていて、要するに飲みたくない。
といっても全く飲まないわけではない。
ワンドリンクサービスがあれば白ワインを頼むし、地域によっては地酒を1合ほど飲む。
旅の疲れや知らない土地に来た緊張感を和らげるのにお酒は最適だし、食前酒のように、程よい鈍感さと鋭敏さが備わった舌で味わう料理は美味しい。
しかし不思議とそれ以上は(店員さんには申し訳ないけど)欲しくもないし、実際にはこれで十分。そして何より、食後が楽である。
私の場合、例えば温泉宿に到着するとまずひと風呂浴びる。自宅でも風呂は夕食前に入ることが常なので、これはまあ自然のことなのだが、温泉宿ではさらに食後にも浸かるようにしている。せっかくの天然温泉に来ているのだから何度か楽しみたい。
それで食後の入浴だが、この時酔いすぎているとまずは間違いなくのぼせる。視点を変えるとこれは気持ち良い感覚でもあるのだが、やはり身体は相当のダメージを受けるようで、部屋に戻ってバタンキュー(古い)である。会話もあったものではない。
これがほどほどに飲んでいる時は夜の肌寒い露天を心ゆくまで楽しめたり、部屋に戻った後でベランダで涼みながら虫の音を聞くこともできる。うまくいけば夜空の写真を撮りに散歩に出かけることもできるかもしれない。
この”旅先でお酒は1杯だけ”のさらに良い点は翌朝である。
これは私だけではなくアジア人種特有の問題だと思うが、飲みすぎた翌朝はほとんどの場合二日酔いに似ただるさを感じるだろう。こうなると本当に旅自体が台無しとなるところだが、やはりこれも、元気一杯とはいかないが(これは歳のせいでどうにもならない)、笑顔で家族に挨拶をして朝日に勇気づけられながら朝食を美味しく食べるくらいのことは軽くこなせるようになる。
というわけで最近では旅に出るたびに湯から朝食まで全てが快調に行えることを身体が覚えてそれを欲してしまったのかもしれない。五臓の声を自然に聞けるようになれば気力は回復し人生は充実するのかも。
それでも時々、店員に勧められるまま地酒を飲み漁って、目に収差の激しいオールドレンズをはめているかのように歪む外界をひとりで楽しんでいたあの頃も懐かしく思いますけど。
若かったのでしょうね。