「三歳老け込むくらいなら、二万円払った方がマシ」の真意
「三歳老け込むくらいなら、二万円払った方がマシ」
上手いことを言うもんだな、そう思った。
GWに旅行にでも出かけようと計画を立てていた時、300キロ離れた場所へ車で行くべきか新幹線で行くべきかについて友人に聞いてみたところ、先の返事が返ってきた。
彼は大の車好きで、私とはもう30年来の付き合いがある。 もっとも車好きといっても彼の場合は一台の愛車を乗り回すのではなく頻繁に買い替えるタイプで、車”買い替え”好きといった方がしっくりくるかもしれない。新車の前で嬉しそうにポーズを決める彼をライカM3で撮ったのは良き思い出だ。
数ヶ月前にもRVハイブリットモデルを新車で購入したと嬉しそうに連絡があった。
「これでキャンプに行くんだ」
中学生になる息子と星空キャンプ。素敵な親子だな、心からそう思った。
まあとにかく、先の質問にはてっきり「車に決まってんじゃん!」という即答を半ば期待していたのだが、回答は「新幹線で行く」という意外なものだった。 理由を聞いてみると「疲れるから」と、あまりにも単純すぎて閉口した。
というのも、これは偏見になるのだが、私の考える車好きの人はメカニカルな面が好きなのはもとより、何よりも運転そのものに楽しみを見出しているのではないかと思っていたからだ。
私自身は車の運転はどちらかというと好きではない。神経を使うし、身体のあちこちがこわばって痛くなる。渋滞はストレス以外の何ものでもない。
車好きの人はこの渋滞すらも、アイドリングのエンジン音やハンドルの微調整、アクセルの吐息に愛情を感じられる人。ある意味で本当に羨ましいと思っていた。 それが彼から「長距離運転は疲れるからやりたくない」と、私のリスペクトを一蹴されてしまい、コペルニクス的転回ほどに真理を目の当たりにした気分だった。やっぱりそうか!
「歳のせいか、長距離を運転すると疲れが全く取れない。300キロなら新幹線で一時間程度で到着するし、その間ビールでも飲んで寝てればいい。景色もゆっくり楽しめるだろ。往復で八時間近く運転した日には三歳は老け込むぞ。その距離を新幹線なら往復二万円で済む。俺はそっちを選ぶね。アンチエイジングだ、ははははは」
なるほど。
机の上に置かれた出番の少ないホルガカメラをみながら、まあフィルムとデジタルのようなものかな、とやけに納得した。
さて、家でゆっくりしますか(笑。