Cure of GAS

Castle Rock Photography

日々について淡々と書きとめてます。

焼けたネガとライカ

去年の初め頃、フィルムを巻き戻す前に底蓋を開けてしまったことがある。

その時はショックで現像したネガを見もせずに棚に放り込んでしまったのだが、今となっては大変いい想い出話となっている。

Let go of yourself

湖畔に到着したのはまだ薄暗い明け方で、ほんのり朝霧が漂う中、時折釣り人の人影がみえた。 ISO100のフィルムを詰めたライカを首にぶら下げ、冷たい湿度をもった心地よい冬の空気を感じながらぶらぶら桟橋周辺を散歩する。

レンズはズミルックス35mmのみ。絞りをF1.4に固定し、シャッタースピードを注意深く調整しながらシャッターを下ろす。こんな薄暗い朝は特にF1.4の恩恵を感じる。

手が凍えそうだったが、撮影中はシャッターフィーリングが鈍るので手袋はしない。冷たい鏡筒と指の腹に触れるフォーカスレバーが凛とした風を誘い、脇をしめて1/8でシャッターを切る。1枚、そしてもう1枚。

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MP0.72/summilux asph

普段120で撮っていると135が長ったらしく感じる。しかし気軽に、目についたものを、枚数を気にせずに撮れるのはありがたい。特に刻々と表情を変える夜明けや日没の撮影には36枚、ちょうどいい。

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ファーストロールを終えて車に戻り、ライカをひっくり返して底蓋を外した。 そこで、ハッとした。 無いはずのフィルム感光面が、パーフォレーションが見える。

すぐに閉めるべきだったのだが、なぜか思考停止。

おそらくこれまで撮影後の巻き戻しはほとんど無意識で行っていたせいだろう。 あまりに自然の行為すぎて、原因(無意識)と結果(現在)の脈絡がつながらなかったと思われる。

と言ってもおそらく3秒から5秒程度で、これはマズいと思ってすぐに裏蓋と底蓋を閉めた。フィルムが光で完全に焼かれるまでに数秒間というルールがあるらしいので、 「まあ...」「う〜ん...」と考え込む。「ひょっとしたら大丈夫かも...」「やはり無理かな...」などと自分の中で納得できる答えを探し求める。

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仕事で撮っているわけでは無いので正直なところ自己消沈以外の問題は起きない。もちろんフィルムはコストがかかるので(現像まで行うとワンショットあたり100円〜200円)、1ロール無駄にしたことは残念だが、それよりも初歩的なありえないミスをしたことに気分が落ちた。 しかしすぐに気を取り直し、撮影を続けた。

ささやかだがライカと過ごした楽しい日だった。

帰宅し、現像する。一縷の望みをかけて仕上がったネガを見る。 フィルム上面、つまり裏蓋を開けた側のパーフォレーションにそって見事に白くなっている。すぐに棚に仕舞い込んだ。

去年暮れから年始にかけてフィルムを整理していて、この失敗ネガを見つけた。 その時は見たくもないと思ったネガだが、なんだかすごく楽しくて、宝石を見つけたように得した気分になった。

成功も失敗も時が経てば良い思い出なんだろう。丁寧にスキャンして保存した。 ブログに掲載の写真が全てである。

デジタルならとっくにDeleteしてハードディスクから抹消している思い出。やっぱフィルムは良いね。