Cure of GAS

Castle Rock Photography

日々について淡々と書きとめてます。

デジタルはどこまでフィルムに近づけるのか

Web検索で良い感じのフィルム写真を見つけた。被写体もそうだが何よりその全体的な雰囲気がいかにもフィルムぽい。しかしよく見てみると、VSCOとある。

VSCO: 写真加工・動画編集アプリ

VSCO: 写真加工・動画編集アプリ

  • Visual Supply Company
  • 写真/ビデオ
  • 無料

ほとんどの方がご存知だと思うが念のため、VSCOはフィルムシュミレーションアプリで、この分野では恐らく最も有名だろう。現在デスクトップ版は廃止でスマホ用アプリのみになってしまった上、サブスク(月額、年額支払い)のみとなっているが、フィルム風写真ブームの波に乗りユーザーを着実に伸ばしている。

上述の写真、私が意外に思ったのは、その写真は間違いなくフィルムで撮られていたのだが、そこにさらにVSCOで加工しているという点だ。フィルム写真にVSCOを当てることでよりフィルムぽさを引き出す。なるほど。フィルムユーザーとしての感情論は隅に追いやったとして、雰囲気が良いのは間違いない。それではデジタル+VSCOとフィルム+VSCOでは、それでもフィルムの方がより”フィルムぽさ”が出るのだろうか検証してみた(在宅中はロクなことを考えない)。

ちなみにVSCOそのものは私は使ったことがなかったので、これを機会にダウンロードしてiPhoneで色々いじってみたのだが、これなら普段使っているCP1やLightroomでも似たような加工ができると思いすぐに解約した(画面が小さいのも使いづらい)。よってここではlightroomを使用した。

https://www.instagram.com/p/CAJKkGgjb4H/

https://www.instagram.com/p/CAJKn-FDTpm/

https://www.instagram.com/p/CAJKlaCDTAz/

https://www.instagram.com/p/CAJKmocjHrf/

4枚のうち上からフィルム、デジタルの順に交互配置してある。これらの写真について言えばデジタルの方が綺麗で、フィルムは荒々しさがある。

さらに偶然同じ場所で撮影したものがあったので載せる。

https://www.instagram.com/p/CAJKvvnjFwq/

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正直なところパッと見ただけでは判断は難しい(上がフィルム)。もちろん細部を隈なく見ると、デジタルはモアレが生じているし、画質の劣化もひどい(グレインを加えすぎると尚更)。しかし比べてみると、という次元である。よってフィルムぽさは、元がフィルムだろうがデジタルだろうが加工によって十分に表現可能かと思われる。VSCOなどの加工アプリによって画の上ではフィルムとデジタルの違いはもはや無いだろう。

 

それではなぜフィルムか。これまでの記事でも散々書いてきたことだが、フィルムで撮る楽しみはその過程にある。被写体を見つけ光を読み、露出を決めてシャッターを押す。すべてがスロー。そして現像と印画。これらウェットプロセスはデジタルには絶対に真似できない。 頻繁に行けるわけではないが、私にとって暗室作業は映画を立て続けに4本観るくらいの充実感と発見がある。

Plaza

フィルム写真にはデジタルよりもはるかに撮影者の気持ちが含まれている。フィルム選びから(カラー、モノクロ、ISOなど被写体や場所に合わせて選択する)、注意深いフィルムローディング、ファーストショット、しっかり撮れているのか露出は適切だったか、現像が上がるまでの緊張感、ネガをみたときの感動、スキャンや暗室作業でネガに吹きかけるブロアのサウンドなど。

そんなことを考えながら自他問わずフィルム写真を見るのもまた楽しいものである。

気候が良くなり太陽の時間が増えると気持ちも高まる。こんな季節はポジフィルムで濃厚な発色を楽しみたい。(写真は数年前の夏に撮ったもの)

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Leica M3 | Summaron 35mm | Velvia 100 | 加工なし

 

 

Flexaret VI レビュー

長いこと記事にしようと思ってそのままになっていた備忘録レビュー。

このカメラを知ったのは本当に偶然で、チェコ出身の小説家クンデラ存在の耐えられない軽さを読んでいた流れでチェコスロバキアに興味を持ち始めた。同時期、不思議なことに幾つかの店舗でこのカメラが売りに出されていた。値段も中判6x6フォーマットの中では高くはないし、うまくいけば写欲を取り戻せるかもしれない。それで興味本位で入手するに至った。

このカメラの歴史的背景は他の方のブログなどに譲るとして、以下外観を含めて使用感など率直な感想を述べたい。

デザインはカチッとしたローライとは異なり、柔らかさを帯びた、個人的には地中海沿岸諸国のイスラム芸術風の印象を受ける。棚に置いておくだけでも様になる。雑貨屋さんなどに置いてありそうな雰囲気。

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実用レベルでの話をすると、レリーズの位置が上部にあり、ピントリングがスライド式のバーになっている。ローライを使っていると最初かなり違和感があるがすぐに慣れる。個人的にはこちらのスライド式がピント合わせはしやすかった。

ファインダーは暗い。室内ではほぼ中心部分しか見えない。その点ピントの山は掴みやすい。これも多くのレビュワーが同意している。

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レンズは Belar 80mm F3.5 で、焦点距離Rolleiflex 2.8と同じ、換算44mm、ポートレートやブツ撮り向き。描写はかなり優秀で、合焦すれば驚くほどのシャープネス。開放では周辺のヴィネットが気になるが味と考えれば問題ない。メオプタ社自体は今でも現役で軍用のスコープなどを開発しているので、レンズの性能はお墨付きだろう。

Sunrise through the window

逆光でのフレア、ゴーストは壮大に出るが、そもそも抑制の期待はしていないので表現の一つとして使えるだろう。

好きなカメラではあったが、結局数ロール撮影して手放すことになった。原因としては近接における後ピンだ。個体差だと思われるがファインダー上で完璧にピントを合わせても絵はボケている。最初は私の技量かなと思ったのだが、これまでローライ、ハッセルと使ってきて真面目にピントを合わせて合焦していないことはなかった。

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ファインダー上では完璧に猫顔に合わせたはずが、後方のブランケットに合焦。

もちろん手放すことに躊躇いはあった。遠方は絞り込むため特に問題はないし無限も出る。デザインも気に入っている。しかし私はコレクターではない。コストのかかるフィルム撮影なら尚更、どんな時でも信用できる道具を使って撮影をしたい。この点ライカは素晴らしいと思う。フォーマットは違えど信用できる。

まあとにかくこのカメラのお陰で久々に撮影する楽しさ、現像を待つ喜びを感じることができた。その点は大変感謝している。差額出費はあったが高速を乗り継いで旅行に出たと思えば安いものである。

Winter Morning Windows

またいつか会いましょう。Bye Bye Flexaret

 

中判カメラの教科書 (玄光社MOOK カメラ・ライフ別冊)

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本当に必要な写真は10分の1しかなかった

在宅が長引き手持ち無沙汰の日々が過ぎる。 普段やれない事をやろうとして、本を読んだり、映画を見たり。 写真も整理しないと。

この際思い切って写真断捨離もいいかもしれない。 それでデジタルとフィルム合わせて1万枚以上の写真を洗ってみる。

パッと見た感じ無意味な写真は削除する。無意味というのは、その写真があっても無くても同じと言う意味。

旅行の写真など、例えば街並みを撮ったとする。それを数ヶ月、数年後に見た時、その場の空気というか、感情がリコールされる写真は残す。いわばストーリのある写真。それ以外は無意味とする。

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5D Mark II Zeiss 25mm

スコットランド東にある古城。道に迷ってしまい親切な地元の方の車に乗せてもらいたどり着いた。

 

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EF35mm F2

明け方4時頃のロンドンSt Pancrasstation。タクシーで到着したものの、クレジットカードの運賃支払いができず、外に運転手を待たせたまま構内ATMで引き出して支払いを済ませた。信頼して待っていてくれたタクシー運転手に感謝

 

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Distagon 35mm F1.4

雨上がりのパリ。ホテルから。雲があまりにも美しくずっと見とれていた。

 

そうしてテンポよくMacBookのdeleteボタンを押して1週間近くかけて断捨離した結果、総数の10分の1にも満たない数の写真がコレクションとして残った。 特にデジタルは数に制限がないのでタチが悪い。うんざりするような写真が連番で残っていたりする。10分の1どころでは無くdeleteボタンを押す右手が痛くなるくらい抹消した。

フィルムも同様で、135mm36枚撮りフィルムならばおよそ3枚程度が残しておきたい写真で、ブロー二なら1枚か2枚程度。

しかしそうは言ってもフィルムの方がデジタルよりも明らかに残留率が高い。一枚一枚を構図と光を考えて露出を決めて丁寧に撮るためだ。感情と緊張感も光とともにフィルムに描かれている。

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Rollei 35 - ilford HP5 Plus

ミラノのホテル階下のバーから持ち帰ったイタリアのグラッパというお酒。あまりにもキツすぎて3口飲んで寝てしまった。これは翌朝目覚めた時の写真。コインは不明。

 

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Rollei 35 - Kodak Portra 160

ヴェニスの朝焼け。今の状況を考えると二度と行けないかもしれない場所。

 

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Summicron 35mm F2

学生時代、よく通っていた京都にあるコーヒーハウスのチャイとドーナツ。3年前に行ったきり。マスターは今でも元気にコーヒーを煎れてるだろう。

 

この禍々(まがまが)しい状況が終わりを迎えたら、冷蔵庫に眠っているフィルムを思う存分使ってみたい。

スポーツジムを退会した話

スポーツジムを退会した。

30代後半から始めたジム通い。知り合いがゴールドジムユーザーだったので紹介特典の流れで入会。それから別のジムへ移り5年になる。

私は完全にインドア派だが、元々身体を動かすことは嫌いではない。マラソンもチャレンジしたし(膝を痛めて止む無くリタイア)、写真を撮っているため、山登りも時々(1000mの日帰りレベル)気が向いたらする。

今更この歳でムキムキボディを求めている訳ではないが、習慣にしたらなかなか止められない性分のため、これまで週2〜3は通い続けていた。当然身体は引き締まるし、自分で言うのも相当馬鹿げているが40代にしては悪くないと思う。

先日発表された首都圏の外出自粛。3密禁止という事で当然スポーツジムはその最前線となっている。しかしジムが自主的に休館する事はあり得ない。それをしてしまうと会費が徴収できなくなり破産する。ジムスタッフも生活がかかっている。よって行くか行かないかはあくまでユーザー側の判断となる。

身体を動かすことが習慣化されている人には共感していただけると思うが、それができなくなる事は相当なストレスである。しかし、それが本人でなくても、もしもジム内で感染が発覚した場合、当然利用者が全て洗い出され、場合によっては各人が隔離措置となる。勤め人ならば当然会社に連絡が行き、そこから芋づる式に関係者が探られる。家族も。そもそも外出自粛の最中、なんでジムに行ったんだ、というある意味で無責任な者として扱われる。

これは非常に社会的なダメージを受けるリスクが高いし、ジムに行けない事の10倍はストレスがかかるだろう。 最初は休会を考えたのだが、映画のように数ヶ月のうちにこの状況が全くクリアになるとは思えないため、退会申請をした。

書類にサインをしているその側では入会申請をしている若者がいた。恐らく学生か何かだろう。批判するつもりはない。社会的責任の無い立場は本当に羨ましい。私もこういう時期があったな。

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ここ数日は人混みを避け妻と軽い散歩をしたり、その道中で桜の写真を撮ったりした。そして自宅でなんとかトレーニングができないものかと注文したのがチューブ。私のように筋肥大を目的とせず、筋力維持を目的とするならこれで十分な強度がある。YouTubeなどでも自宅トレーニング動画が流行っている。フィットネスにおけるパラダイムシフト。

1日でも早い状況改善を望む。

 

風吹き荒れる中禅寺湖(奥日光遠征)

例年3月は妻と1泊旅行をするのが恒例で、北関東を中心に車で3時間圏内を散策していたのだけれど、このご時世、やむなくキャンセルをした。

そのかわりに1人で奥日光へ日帰りで行くことにした。まだ自粛要請が出る前の話である。まあ湖の写真を撮るだけだしクラスター3要素には当てはまらないだろう。持参したのはハッセルと CANON RP。フィルムは Agfa Copex Rapid と Kodak Portra。

サービスエリアで休憩を挟みながらおよそ2時間半、日光道へ到着。午前の早い時間帯で道中はかなり空いており、いろは坂はワインディングを楽しめる程にガラガラだった。スバルの四駆は素晴らしい安定感で山を駆け抜ける。

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いろは坂にて

奥日光に行くのはこれで2回目、前回はおよそ10年前。思えば生活に少し余裕ができた頃で、ナビもついていないオンボロの軽自動車で妻を乗せて湖畔をドライブした。

中禅寺湖南西の駐車場に車を停めて機材を下ろす。しかし寒い。ここ数日首都圏では暖気が流れ込んでおり春の陽気と勘違いしていた。風が吹き荒れており、念のために持ってきたコートとウィンドブレーカーを重ね着しても凍えるほどだった。しかし天気は良く、時折青空が顔を覗かせる。

Icicles

三脚にハッセルを固定しファインダーを覗く。美しい。ND-1000フィルターで露光を長くし湖の荒波を鎮める。

Lake Chuzenji (Chuzenjiko)

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ND-1000 / 10 sec

数枚撮影したが、どうにも寒すぎる。手が震え、鼻水も出てきた。身体を動かしたほうがよさそうだ。

一旦車に戻り CANON RP を片手に散歩をしながら目についたものを切り取る。平時がどうなのかわからないが、歩いている人はほとんどいない。

少し早い時間だったが、湖畔沿いの蕎麦屋湯葉蕎麦とおいなりさんを食べた。とても美味しい。

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湯葉蕎麦。心まで温まった。

客は私一人で愛想の良い店主と少し会話をした。昨日はもっと風が強かったらしい。例の騒ぎで観光に影響が出ているのか知りたかったが、そんな野暮ったい事を聞くのはやめておこう。 礼を言って店を後にする。

 

その後再び車に戻りハッセルにポートラを詰めてカラー撮影。

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独特のフレアが神々しさを演出する。Distagon C60 F3.5

実は今回初めて気づいたのだが湖周辺はフランス、イタリア、英国など外国の大使館別荘地だらけである。避暑地としてここで過ごすのだろう。そう思えば湖へと続く裏道がニースの街並みのように見えてくる。

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昼過ぎに湖を後にする。気温も高くなり中心部ではかなり人が増えてきたようだ。なんだか少しホッとした。

また状況が改善したら旅館に泊まって湖に映る夕日でも見ながらゆっくり過ごしたいと思う。

 

https://www.instagram.com/p/B-dHgk6j8Ys/

 

 

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魅惑のフィルム

相変わらずフィルムで撮っている。

レンズやカメラに対して倦怠期という時期で、その辺りにはどうにも楽しみを見出せ無くなった。これまでの金銭的な負担も大きく、計算するのも恐ろしい。幸いなことにローンは無い。買えないものは買わない、買える範囲で買う。いわば沼でこびりついた泥を洗い流して、ヌルめの湯に浸かっているような気分である。

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かつての相棒達

ふと思い立って高解像度フィルムを手に入れた。Agfa Copex Rapid 120。

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これまで高解像度フィルム(低感度)はあえて避けてきた。理由は単純で、その低い ISO がスナップ的な撮り方にそぐわないためである。日中なら問題ないが、ISO20 や 50 では F1.4 でも手持ちの室内撮影はほぼ不可能。個人的には ISO400 がベストで、これに 1/60 F2.8 を基準としてオールマイティに撮影できる。

最近、腰を据えて中判カメラで撮る機会が増えた。普通のサラリーマンのため撮影機会がそうそうあるわけでは無い。それならば撮るときはどっしりと構えて、いわゆる三脚+レリーズ、で作品を残そうという感じである。

フィルムが到着した。早々にハッセルに詰めてみる。なんだかウキウキする。まるで新しいカメラを購入したような気分だ。よく考えればフィルムはデジカメでいうセンサー。フィルムを変えることは新しいカメラを買う事と相違ない。

日中の室内、自然光の下絞れるだけ絞って、20秒近く開いた。

Flowers

現像液は Spur。注意深く26度まで温度を上げる。出来上がったネガを見て、その美しさに息をのむ。そしてスキャンしてニヤける。

Flowers

サスティナブル(持続可能)、という言葉が思い浮かんだ。写真という趣味を長続きさせるためには急がない事。そして散財しない事。カメラ、レンズだけではなく現像液、フィルム、もちろん被写体など違う視点から包括的に捉える事。

Dried Flowers

撮影から現像まで何から何まで時間がかかったが、同時に新しい感覚を覚えた。やっぱり、この趣味は楽しいね。

 

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続編:ストリートフォトについて思うこと

「〇〇さん、写真撮ってるんでスよね、これってどう思いまスか?」

職場の男の子(といっても十分に成人だけれど、私からすれば20代は男の子に見える)、がそういってスマホの画面を見せてきた。 写っていたのは例のアレである。現状公式では削除されているためここではURL等は載せないが、X100Vのプロモーションビデオで写真家の鈴木氏がストリートフォトを機敏に撮っている動画だった。

以前書いたように私はストリートフォトを撮らない。撮りたいという気持ちはあるが、上野のアメ横で魚屋の店主がハチマキを巻いて一生懸命マグロを捌いている、いわゆる暗黙のパブリック可写真程度が限界で、知らない人の喜怒哀楽を正面から写すなど頼まれてもできない。

誰にも真似できないことをする事が芸術ならば鈴木氏の写真は大変に価値があるだろう。実際に氏によって撮られた写真を見てある種の感動を覚える人々が古今東西いるのは間違いのない事実であるし、芸術とは元来そういった需要で成り立っている。

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Paris

実はこの問題動画が上がる前、氏のストリートスナップの動画を見たことがあった。場所は海外で、氏は軽快にすれ違う人々をスナップしていく。時に罵声を浴びせられることもある。そんなことはお構い無しに撮影を続けていく。ある意味で衝撃的な映像だった。もちろんもっとすごいのは探せば沢山あるけど。

そして、こうも思った。やろうと思えばGoProなどを胸に付けて人々に出来るだけ近づきながら街を歩き、後でキャプチャーとしてレタッチでもすれば一定の取れ高はあるだろう。しかしそれでは被写体本人が撮られた事に気がつかないため、いわば盗撮になってしまう。

それよりもあえて正面からカメラを構えることで被写体にされた人は明らかに撮られた事に気づく、そしてその行為後に異議を唱える時間的余地がある。もちろん沈黙は承諾とみなすとは思わない。ただ、隠し撮りよりはまだマシ、というだけである。

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Paris

要するにこのジャンルの写真を成り立たせるためには現状、鈴木氏のような撮り方しか方法がないのではないか、それ以外の方法では、例えば300mmのレンズでビルの上から渋谷交差点を狙えばいくらでも類似の写真は撮れるが、やはり本人が気づいてないため盗撮になってしまう。

今回の動画の最大の問題点は一般受けしない内容を一般向けに公開した事だろうと思う。個人的には氏の撮影過程はずっとブラックボックス内で、作品のみを公開すれば良かったのではと思う。こんな事で氏が心無い批判に晒されるのはあまり心地よい事ではない。

なんでもそうだけれど、個人的には芸術家や有名人は舞台裏(私生活など)を公開しない事、これが人々に夢を与える偶像(アイドル)なのではと思う。

「今の時代にはそぐわない映像だね」と彼には伝えた。

 

《追加と訂正》

記事の中で盗撮という言葉を用いていますが、犯罪とされる行為の盗撮ではなく、あくまで辞書レベルでの盗撮という意味です。

興味があれば以下参考にして下さい。

何れにしても鈴木さんが大ダメージを食らったのは大変問題で(Twitterも削除など)、なんだか『いつでもどこでも誰でも簡単撮影』を謳う富士フィルム自らがパンドラの箱を開けてしまったような気がしています。